離婚に際して取り交わす「離婚協議書」。養育費、財産分与、慰謝料、親権、面会交流など、離婚後のトラブルを防ぐために取り決めを文書化しておくことは非常に重要です。
では、この離婚協議書は 「公正証書」にするべきなのでしょうか? それとも単なる私文書(署名・押印だけの協議書)で十分なケースもあるのでしょうか?
今回は、行政書士の視点から「公正証書にするべきかどうか」について、判断のポイントと注意点を解説します。
公正証書とは?普通の協議書と何が違うの?
「離婚協議書」を公正証書にするというのは、公証役場で公証人が関与し、公文書として認証された書類にすることを指します。最大の違いはその法的効力の強さです。
特に、以下のような点が大きなメリットになります
- 養育費・慰謝料など金銭支払いの取り決めがある場合、公正証書にしておくと強制執行が可能
→ 支払いが滞った場合、裁判をせずに給料差押えなどの手続きが可能 - 公文書としての信頼性が高く、裁判などでも証拠能力が強い
一方、単なる協議書(私文書)の場合、法的な証明力は弱く、相手が約束を破ったときは、まず裁判を起こして「支払い命令」を得る必要があります。
公正証書にすべきケースとは?
次のようなケースでは、公正証書にすることを強くおすすめします
① 養育費・慰謝料などの金銭的な取り決めがある場合
たとえば、毎月の養育費を10年以上にわたって支払ってもらうケースでは、支払いが滞るリスクに備えて、公正証書による「強制執行認諾文言(※)」付きの文書が必要です。
※「支払いが滞った場合には、強制執行に服することに同意します」という文言
② 相手に対して不信感がある場合
たとえば過去に約束を破られたことがある、金銭的なトラブルが多かったなど、相手方の誠実性に疑問がある場合は、公正証書で担保を取ることが安心材料になります。
③ 長期にわたる取り決めがある場合
養育費や財産分与の分割払いなど、数年単位の支払いを取り決める場合は、途中で事情が変わったり支払いが止まったりするリスクがあるため、公正証書が有効です。
協議書だけでも大丈夫なケースとは?
一方で、以下のようなケースでは、必ずしも公正証書にする必要はありません。
① 財産分与や養育費などの支払いがすでに完了している場合
すでに一括で支払いが完了していて、将来的な支払いが発生しない場合は、協議書として記録を残すだけで十分です。
② 離婚後も友好的な関係を維持できており、信頼関係がある場合
お互いに子どものことを第一に考えており、口約束でもしっかり守ってくれると感じられるような関係であれば、協議書だけでも問題が生じないケースもあります。
ただし、人の感情や状況は時間とともに変わるため、たとえ信頼関係があっても、公正証書にしておく方がより安心です。
③ 公正証書作成に相手が非協力的な場合
公正証書を作成するには、原則として両者の同意が必要です。相手が拒否して協議に応じない場合は、とりあえず署名・押印のある協議書を残しておくことも一つの選択肢です。
公正証書にする手間・費用は?
【手間】
公正証書を作成するには、行政書士が作成した原案を元に公証役場に予約・訪問し、公証人とやり取りを行う必要があります。本人確認書類や印鑑証明書なども必要です。
【費用】
公正証書の作成費用は、内容や金額によって変わりますが、一般的には2万円〜5万円程度。行政書士に原案作成を依頼する場合は、別途報酬(3万円〜10万円程度)がかかることもあります。
まとめ:自分たちに合った方法を選びましょう
離婚協議書を作成する際、「公正証書にすべきかどうか」は非常に重要なポイントです。
養育費・慰謝料などの支払いがある
支払いが長期にわたる
トラブルのリスクを回避したい
という場合は、公正証書が強くおすすめです。
一方で、支払いがすでに完了している場合や、相手との信頼関係が確かな場合は、協議書だけでも問題ないケースもあります。
状況に応じて適切な形式を選び、将来の不安を少しでも減らせるように準備することが大切です。不安がある場合は、行政書士など専門家に相談するのも一つの方法です。